当院院長は自身がアメリカ大陸横断4700kmマラソンに参加するなどの経歴をもっており、特にマラソンにおけるスポーツドクターとしての診療も行っております。
ランナーに必要とする医学知識
市民ランナーとはいえランニングは体にかなりの負荷がかかるスポーツです。
走る距離が短ければ障害を起こすことは少ないでしょうが、それでも若いときとは違って、練習量が少なくてもさまざまな障害を招く可能性があります。
こんな時、医学知識をある程度もっていると自分で対処できるものも少なくはありません。
ここではフルマラソンからウルトラマラソン(42.195kmより長い距離を走るマラソン)、トレイルレースなどあらゆるランニングにおける障害を想定してその対処法を簡単にまとめてみました。
急性胃炎
食欲が全くわかない、吐き気、嘔吐など、胃の症状は距離が長くなればなるほど発生しやすくなります。
これは、「飲んだ水であたった」「走る振動で胃がやられる」などではなく、当然起こるべくしておこる急性胃炎です。内視鏡でみると胃の粘膜のいたるところから出血している急性胃粘膜病変(AGML)という状態です。
右はAGMLの内視鏡写真です。胃のいたるところ柄出血しています。
対策として長距離ランの前日から予防的に胃薬を服用することをぜひおすすめします。
「太田胃散」や「キャベジン」程度ではだめです。
薬局でも手にはいるものとしてはH2ブロッカーです。各社からさまざまな商品が出されています。
もしこれでも効果がないときは量が足りないか、病院で処方される薬のほうが良いでしょう。
それでも5%くらいの人は効果が見られないようです。
こんなときはプロトンポンプインヒビター(PPI)という系統の薬を飲むのがよいでしょう。
前日から飲んでおくのがよいと思います。
貧血
ランナーには、ほぼ必発。多かれ少なかれ貧血はおこります。特に練習量が多くなると貧血になりやすくなります。
ゆっくり進行するため慣れ現象が生じて無症状のことが多く、「気づいたときにはひどい貧血だった」ということもあります。
いわゆる立ちくらみやめまいは必ずしも貧血症状とは限りません。
疲れやすかったりガス欠になりやすかったりしたら貧血を疑って検査を受けてください。
貧血は特に夏場に練習量が多くなると起こしやすいので、5月頃から予防的に鉄剤を飲み始めるのが良いでしょう。なお、鉄剤はドーピング禁止薬物には含まれておりません。
貧血はがんなどの病気の初発症状のこともあります。
練習量が少ない割には貧血が強いとか、冬場でも貧血になってしまったというときは、病気が隠れている可能性があることも考えに入れて検査を受けてください。
体の痛み
シリアスランナーに限らず、ランナーには足腰の痛みや故障はつきもの。
特に中高年ランナーは若いランナーに比べて筋肉の柔軟性が落ちているので常に痛みを引きずっている人も多いようです。
ラン直後はアイシングをして急性の炎症を取っておきましょう。
そして普段からマッサージ、ストレッチングを十分やって慢性の炎症を溜め込まないようにします。特に入浴中や直後は効果が高いです。
こうして日ごろから体のちょっとした痛みのサインに配慮しておけばほとんど克服できます。
レース中の痛みは、痛み止めを服用して克服します。痛み止めはドーピング禁止薬剤ではありません。
痛み止めはレース中携帯しておけばとっさの予期せぬ痛みにも対応できます。
ただし痛み止めは、副作用として胃腸障害があります。
副作用予防の意味でも予めH2ブロッカーなどの胃腸薬を服用しておくべきです。
ランナーの食事
ランナーは体が命です。食べたいものを食べたいだけ食べるのではなく、常に自分の身体には何が必要なのかを考えて食事をするように心がけるべきです。
インスタント食、コンビニ食、ファーストフードではいずれ記録の限界が訪れるでしょう。
息の長いランナーになるためには、また、自分の持っている能力を最大限引き出すため、たくさんの種類の野菜を食べましょう。
また、大豆、大豆製品、海藻、きのこ類もランナーに必要な栄養源が多く含まれています。
肉、魚などたんぱく質も練習量が多くなれば積極的に摂りましょう。
また食事のタイミングは、実際には難しいですが練習直後がベストです。
練習後にゆっくり話したりシャワーを浴びたりしていると、食事摂取のゴールデンタイムを逸してしまいます。練習後何も食べなでいると傷ついた筋肉を修復できなくなるので、後々のケガにもつながります。
ついつい食事の偏りが出てしまうからと、努力を怠ることの言い訳をサプリで埋め合わせないようにしましょう。
健康の3本柱は食事と運動と睡眠です。特にランナーはこの3原則を常に意識して生活するべきです。そうすれば中年以降も記録アップできるランニングも夢ではありません。