専門用語というか業界用語というか、医療の現場ではムンテラという言葉をよく使います。特に大きな病院では医療従事者の間で頻用される言葉の一つだと思います。
ムンテラというのは口(mouth)を意味するドイツ語(だったかな?)とテラは治療(therapy)から来た言葉と思っています(間違ったらごめんなさいググっていません)。意味としては病状などを説明するときに使います。例えば
「ちゃんと家族にオペのムンテラしておいてね」とか「末期がんだからシビアにムンテラしておかないと・・・」とかです。
このムンテラから、ムンテラマイシンという派生語があります。ムンテラにカナマイシン、ミノマイシンなど抗生物質によく使われるマイシンをつけた言葉です。意味としては患者さんへの説明によって薬と同じくらい、時にそれ以上の治療効果をきたすような説明のことをさします。
例えばこんな症例があったとします。決して珍しくはないですよ。
通常の治療には反応せず、多くの科の専門医の診察を受け、CT,MRIなどの高額な検査を受けても原因の端緒もつかめず、いろんな薬を使っても改善せず、その都度「気のせいです」「年のせいです」「精神科に行った方がいいかも」「今の病状を受け入れることですね」などと終止符を打たれちゃって、毎日病気のことが頭から離れず、生活の質が落ちてしまう状態。
こんな時に、ある医者が今までとは全く別の視点からある指摘をしたとします。患者さんもその時「あ、今まで自分は病気と闘うことばかり考えてきたけれど、それがかえって悪循環を生む要因だったのじゃないかな。もうすこし見方を考えてみようか」と気づくことができ、その後次第に病状が改善に向かう。 患者は「これまで高額な検査を何度も受けて、様々な薬を使ってきたのはいったい何だったのだろうか?」と過去を思う。
この医師が非常に有能でこの患者の病気の真の原因についての知識があったわけじゃなく、ただ今までのこの患者の治療歴を知り、「専門医がここまでしてやってきたんだから同じ道を歩んでも、この病気は治らない。この患者はここまで長年病気に振り回されてきたんじゃ相当精神も疲れているだろう。ここでいったん休んだ方がいいだろう」と思っただけかもしれません。しかしヴィネはこれこそがムンテラマイシンではないかと思っています。
ヴィネもこんな気の利いたムンテラができるようになりたいと思っているのですが、凡医にはなかなか手の届くところではないです。
患者を前にすると医者は専門的な知識からアプローチしていきます。しかしその過程で病因がわからなかったり治療が奏功しないと、なかなか方向転換ができないのです。自分の専門領域を離れるときは、別の専門領域に紹介するときです。
ムンテラマイシンの定義があるわけじゃなく、自分でこう勝手に思っているだけですが、次のようなものはムンテラマイシンとは言わないと思います。
例えば癌の術前の説明で、そのがんの悪性度、5年生存率、一般的にすすめられているエビデンスのある治療法を説明し、今回もそのエビデンスにのっとってオペする旨を伝え、オペや麻酔に伴うリスクなど不都合なことも隠すことなくすべて説明して、患者さんの同意を取る。この時の丁寧な説明はムンテラマイシンではなく単なるムンテラです。単に医療者側から見たマニュアルに沿った治療の説明をしただけですから。