山中伸弥教授がネイチャーに載ったマスクの効果を解析した研究について、コメントを寄せています。その研究をご自身の翻訳で以下のように述べています。

コロナウイルス(新型コロナウイルスではなく、通常の風邪の原因となるコロナウイルス)、インフルエンザウイルス、もしくはライノウイルス(風邪の原因で一番多いウイルス)に感染した患者さんに協力してもらい、マスクをしない群とマスクをする群の2つに分け、30分間、呼気を採取し直径5μM以上の飛沫と、それ未満のエアロゾルに分取。それぞれのウイルス量を測定した。その結果、マスクをしていない場合、各ウイルスに感染した患者の約1/3で飛沫やエアロゾルでウイルスが検出された。ライノウイルス感染者のエアロゾルでは2人に1人の割合でウイルスが検出された。マスクをした場合、コロナウイルス感染者においては、飛沫とエアロゾルでウイルスは検出されなかった。インフルエンザ感染者の飛沫のおいてもマスク着用群ではウイルスが検出されなかった。しかし、インフルエンザ感染者のエアロゾル、ライノウイルス感染者の飛沫やエアロゾルにおいては、マスクの効果は認められなかった。

そして以下のような意見を添えています。

実際の患者の協力で、マスクの効果を科学的に解析した貴重な研究。患者の飛沫やエアロゾル内のウイルスが検出され、飛沫感染やエアロゾル感染の可能性が指示された。一方で、患者の2/3では飛沫やエアロゾルでウイルスが検出されず、他人への感染性は患者により異なる可能性が示唆される。コロナウイルス感染者では、マスクにより飛沫やエアロゾルへのウイルス排出が抑制できることが示唆された。本研究は普通感冒の原因のコロナウイルスが対象であるが、新型コロナウイルスにおいても、マスクの同様の効果が期待できる可能性がある。

私も興味をもってネイチャーに載った論文を読みました。

そしてちょっと付け足すことがあります。

①この研究で使ったマスクはサージカルマスクで、どんなマスクでも同様の結果が得られるというわけではないということ
②粒子を5㎛で区切っているが正確には5㎛より大きい粒子(日本では飛沫と言っているのかも)と、5㎛以下(日本ではこれをエアロゾルとしているようです)で分けています
マスクをしていなくてもその人の飛沫やエアロゾルの大多数にはウイルスがいなかった(30分の実験で)
マスクをすることでコロナウイルス患者の飛沫やエアロゾルには全く(!)コロナウイルスが検出できなかった(サンプル数11例)が、ライノウイルスはマスクをしてもしなくても同じようにウイルスが検出され、インフルではエアロゾルではウイルスが同じように検出され、それより粒子の大きい飛沫にはウイルスの数は有意に減っていた
⑤検出されたウイルスが感染力あるかどうかの検査はしていない

特に④についてですが、一見「マスクはコロナウイルスの伝播予防に役立つ」と期待したいところですが、じゃあなぜライノウイルスとインフルではこのような結果にならなかったのか?という疑問がわいてきます。サージカルマスクがコロナウイルスのいる飛沫やエアロゾルは取り除き、コロナウイルスのいない飛沫やエアロゾルはスルーするなんてことはあり得ないわけで、もろ手を挙げて喜ぶことはできないと思うのですが、皆さんはどう考えますか?

そしてこの実験結果は「ウイルス感染している患者がマスクをつけることによって、咳などに含まれるウイルスの排泄が抑制できるかどうか」の研究で会って、「マスクをつけることによって感染予防に役立つかどうか」の研究ではありません。後者のような研究は非常に難しく、当分出てこないでしょう。

ついでですが、この論文の一部に図表に合致しない解説がされていました。