手術はまず関節鏡をやって、その結果を直接確認して納得の上でHTOに移行することにしました。これはヴィネが医者で、そこそこのランニング成績を上げているので、十分納得したうえで元の競技レベルには戻れないかもしれないオペを受けてもらうという、いわば術者の精神的負担を軽減するためのものです。
24度に設定されたかなり寒いオペ室に入り、看護師さんは体位をとったりモニターつけたりとてきぱきとオペの準備をします。麻酔はまず硬膜外麻酔のチューブを入れます。これは術後の疼痛コントロールの意味合いが強いようです。さらに腰椎麻酔。これで関節鏡の準備OK。腰椎麻酔が効いていく様は下半身がびりびりして不快です。
関節鏡の体位をとってしばらくしてからその様子をモニターで見せてもらいました。
「この上の丸いのが大腿骨で、この脇にあるのが半月板です」はじめてみる関節鏡の所見はとても印象的です。
「半月板はそんなに痛んでないですね。ちょっとこの辺がバサバサしていますが、これは痛みの原因じゃないでしょうね。この辺は少しきれいにしていきます。そしてこれが前十字靭帯。しっかりしていますね」
「ずいぶん靭帯の周り、も、もやもやしていますが、大丈夫ですか」
「これ普通です」そっか、膝に水がたまった時に見たエコーで浮遊物が見えたけど、これって普通なんだ。
「そしてこれが脛骨の軟骨ですが、ここ痛んでますね。この浮遊物(2つほどぷかぷか浮いている)は剥がれたやつでしょう。これは吸っていきますけど、この軟骨が損傷してがさがさしていることが痛みの原因ですね。これは先生HTOやらなきゃダメでしょう」今までこちらの立場を気遣って言葉を選ぶように話していた先生の断定的な言い方に、ヴィネも強く背中を押されました。
確かに、関節に入れた器具の直径が2ミリなので、削れている部分は数ミリ程度ですが、強い衝撃が加わる膝ではこんなわずかな傷で大きな障害になるんですね。これが広がらないようにするためにはやっぱりHTOしかないはずです。そして負担が減れば、少しは軟骨も再生してくれるかもしれません。心配していた半月板の損傷が非常に少なくてむしろ胸をなでおろしています。
「じゃあ全麻(全身麻酔)に行きますね。だんだん眠くなりますよ」
だんだんじゃなく、いきなりストンと意識がなくなりました。そして次に目が覚めた時にはオペが終わっていました。